一人一人の物語

私は住んでいるマンションの自治会役員をして3年が経った。

ほとんどが私より先輩だが、時間と共に仲良くなる人が増えている。

つい先日、家の電気系統のことを聞きたくて詳しい自治会のKさんに

相談をしたら様子を見に来てくれることになった。

お茶を出して一息ついた時、Kさんがご夫婦の馴れ初めを話してくれた。

「奥様からのちょっとしたメモをもらったのがきっかけでね。」

「お付き合いしたいので良かったら連絡くださいと連絡先がメモに

書かれてたんだよ。」

と、最初から興味深い話！私は前のめりになった（笑）

奥様の実家は今私が住んでいるマンションで、事情があって一時離れていたけど

元々Kさんの存在は知っていて、気になっていたそう。

Kさんが役員をしていたから顔見知りになりたいと奥様も管理組合役員に

なったけど、Kさんは自治会役員だったと入った後に気づく（笑）

それでも運命は動いていく…

勤務先である花屋さんで奥さんが仕事をしていると、Kさんをよく見かける

ようになる。

なんと！！！

Kさんの会社が花屋さんの近くだったのだ。

小さい色んな出来事が重なり、ある時に奥様がKさんにメモを渡す。

メモをもらった時のKさんは、奥様の顔も覚えなくて気に留めなかった。

どうせまた住民からの苦情だろうぐらいにしか思ってなかったそう。

だけど、メモを渡された所をある一人の男性が見ていてKさんに話しかけた。

男性「Kさん、今の人美人じゃない！メモもらってたでしょ！何て書いてあったのよ」

Kさん「え？！顔も覚えてないよ…」

その男性の一言でちょっとスイッチが入り、早速メモを見ると

びっくりしつつも少し嬉しくなって奥様に連絡をした。

それまでKさんは結婚する気なんて全くなかったと言う。

一緒にお酒を飲んで楽しく話せる子が何人かいたから、それで満足していたらしい。

そんなKさんが何で結婚を決めたのか？！

「こんなに自分のために一生懸命やってくれる女性がいるんだ」と思ったから。

二人の娘さんにも恵まれ、一時は俺より子供に目が向いていたけど

娘たちは成人したので、今はまた「お父さん、お父さん」と子供が生まれる

前のラブラブになっていると、嬉しそうに話してくれた。

思いがけないKさんの一つの物語を聴いた後、何かわからないけど充実した

気持ちになった。

有名であろうがなかろうが、何かを成し遂げようが成し遂げまいが、

この世界にいる人の数だけ かけがえのない物語がある。

歓喜悲哀、一人一人の物語を聴いていきたい。

そして、語り継いでいきたい。

yoshiko kurosawa